長期優良住宅を建てれば、3世代以上にわたって長く使い続けられる住宅を手に入れられるだけでなく、税金の控除や住宅ローンの金利優遇などの措置が受けられます。そのため、長期優良住宅に認定される住宅の戸数は年々増加しています。
ただし、長期優良住宅の認定基準は時代に応じて更新されており、また、所管行政庁が定めた各地域の基準を超えることも必要です。この記事では、一戸建て住宅を長期優良住宅として認定されるためにクリアすべき基準や申請方法、建てるときのポイントを解説します。
1.長期優良住宅の詳細な認定基準
長期優良住宅とは、長期にわたって良好な状態で使用できるように措置が講じられた住宅のことです。「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」にもとづき、建築・維持保全に関する計画を認定された住宅のみが該当します。
国土交通省が発表した2021年度の調査データでは、一戸建て住宅のうち27.7%が長期優良住宅でした。過去2年と比べると、徐々に増加しつつあります。
出典:国土交通省「長期優良住宅の認定状況について(令和4年3月末時点)」
長期優良住宅として認定されるには、一戸建て住宅の場合、長期優良住宅建築等計画において下記の基準を満たす必要があります。
条件 | 認定基準 |
---|---|
劣化対策 | 劣化対策等級3かつ構造の種類に応じた基準 |
●木造 床下空間の有効高さ確保および床下・小屋裏の点検口設置など |
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●鉄骨造 柱・梁・筋かいに使用している鋼材の厚さ区分に応じた防錆措置 または上記木造の基準 |
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●鉄筋コンクリート造 水セメント比を減ずるか、かぶり厚さを増すど |
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耐震性 | 下記のいずれかに該当
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維持管理・更新の容易性 | 維持管理対策等級(専用配管)等級3 |
省エネルギー性 | 断熱等性能等級が等級5かつ一次エネルギー消費量等級が等級6 |
居住環境 | 地区計画、景観計画、条例によるまちなみ等の計画、建築協定、景観協定等の区域内にある場合は、これらの内容と調和を図る ※申請先の所轄行政庁に確認すること |
住戸面積 | 75平方m以上
|
維持保全計画 | 以下の部分・設備について定期的な点検・補修等に関する計画を策定
|
災害配慮 | 災害発生のリスクのある地域においては、そのリスクの高さに応じて所管行政庁が定めた措置を講じる ※申請先の所管行政庁に確認すること |
出典:住宅性能表示・表示協会「長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について〔令和5年4月発行〕」
一戸建て住宅が長期優良住宅に認定されるための各認定基準について、詳細を解説します。
1-1.劣化対策が施されているか
長期優良住宅の基本となる「長く住み続けられる家」を実現するための要素の1つが、劣化対策の有無です。
経年劣化が予想される建材に対し、効果的な劣化対策が適用されているかどうかを確認する基準として、「劣化対策等級」が設けられています。また、定期的な点検、補修、清掃などのメンテナンス管理が行えるように配慮されているか否かも評価のポイントとなります。
長期優良住宅の認定を受けるには、少なくとも「劣化対策等級3」を満たすことが必要です。
劣化対策等級の中でも、等級3はもっとも高い基準です。等級1は建築基準法に定められた対策が施されていれば達成可能である一方、等級3では構造躯体が75~90年以上劣化しないような対策が必要とされます。対策内容には換気機能、防水措置、害虫対策、防錆などが含まれます。
1-2.耐震等級2~3以上の耐震性があるか
「住宅の品質確保の促進等に関する法律」略して品確法にもとづいて定められた、住宅の耐震性に関する指標が耐震等級です。人命を守ることにくわえて建物を守ることも重視されており、「損傷防止」と「倒壊等防止」の2つの目標が定められています。
長期優良住宅の場合、2階以下の木造住宅、かつ枠組壁工法の場合は耐震等級3が、それ以外の場合は耐震等級2が認定の条件です。耐震等級の基準は、下記の通りです。
等級1 | |
---|---|
損傷防止 | 数十年に1度の規模の地震でも、大規模な工事が伴う修復を要するほどの著しい損傷が生じない |
倒壊等防止 | 数百年に1度の規模の地震でも、人命が損なわれるような壊れ方をしない |
等級2 |
---|
「損傷防止」「倒壊等防止」どちらも耐震等級1の1.25倍の強度を有する |
等級3 |
---|
「損傷防止」「倒壊等防止」どちらも耐震等級1の1.5倍の強度を有する |
出典:住宅性能評価・表示協会「地震などに対する強さ(構造の安定)」
1-3.維持管理・更新は容易か
長期的に住める住宅を建てるには、配管の破損などのトラブルが生じたときに円滑にメンテナンスできる設計が必要です。維持管理・更新が容易かどうかを図る基準として、「維持管理対策等級」が設けられています。
維持管理対策等級は、給水・排水管やガス管などの設備が容易に維持管理・更新できるように配慮されているかどうかを3段階で評価するものです。
等級1 | 等級2に満たないもの |
---|---|
等級2 | 配管が躯体に埋め込まれておらず、躯体を傷つけず補修可能 |
等級3 | 点検口・掃除口があり、躯体や仕上げ材を傷つけずにメンテナンス可能 |
もっとも評価の高い等級3は、専用の点検口などがあらかじめ設置されていることから、メンテナンス時に内装を剥がすなどの作業が必要ありません。
配管をコンクリート内に埋め込まない、ゴミが溜まりやすくならないように配管のたわみや凹凸を減らすと言った点も維持管理対策の一部です。ただし寒冷地などで、条例にもとづいて配管を設置している場合は、評価時に考慮されます。
1-4.省エネルギー性は十分か
長期優良住宅認定制度は、既存住宅も含めるための法改正が行われ、2022年10月1日より新しい認定基準となっています。変更された項目のうち1つが、省エネルギー性に関する基準です。
新しい長期優良住宅認定制度では、断熱等性能等級5と一次エネルギー消費量等級6を満たす必要があります。断熱等性能等級は屋外と室内の熱がどの程度出入りしやすいかを測るUA値で定められており、基準値は地域ごとに異なります。UA値が小さいほど熱が逃げにくく、断熱性能が高い住宅です。
地域区分 | 地域 | 旧基準 | 新基準 |
---|---|---|---|
地域区分4 | 栃木県など | UA値0.75 | UA値0.6 |
地域区分5 | 茨城県、群馬県、埼玉県、千葉県など | UA値0.87 |
出典:住宅・建築SDGs推進センター「住宅の省エネルギー基準」
新しく求められる断熱性能は、従来用いられてきた断熱等性能等級よりも上位の「ZEH基準」に該当するレベルです。改正前よりも性能の高い断熱材や窓ガラスなどの使用が求められます。
一次エネルギー消費量とは、住宅が冷暖房設備や換気設備、給湯設備、照明や家電で消費する1年間のエネルギー消費量から、太陽光発電などの発電量を引いたものです。
消費量の基準として、建築物省エネ法では「BEI」という指標を使います。BEIは建物の設計時に算出した一次エネルギー消費量を、住宅の建設地の地域区分や床面積、設備機器に応じて定められた基準一次エネルギー消費量で割ったものです。基準が1以下であれば、省エネ基準に適合していることになります。
長期優良住宅の基準となる一次エネルギー消費量等級6は、省エネ基準からさらに20%エネルギーを削減するBEI0.8以下を求めます。
出典:住宅性能評価・表示協会「建築物省エネ法に基づく省エネ性能の表示制度について
1-5.周辺環境に調和しているか
長期優良住宅に認定されるには、地区計画や景観計画に適合し、都市計画に定められた区域内で建物を建てる必要があります。
認定にあたっては、各地域の所管行政庁が定めた居住環境基準・災害配慮基準の要件を満たす必要があります。たとえば、宇都宮市では、居住環境への配慮および規模の基準について下記の通り定めています。
【居住環境の維持及び向上への配慮】- 地区計画等、景観計画、建築協定、景観協定、条例、その他地方公共団体が自主的に定める要網等のうち、所管行政庁が選定・公表したもの
- 住宅の建築制限がある都市計画施設等の区域として、所管行政庁が選定・公表したもの(区域内の場合は市細則第3条1項3号但し書きを適用できるもの)
長期優良住宅の申請時には、これらの条件を満たしていることを申請用紙に記載し、提出する必要があります。
1-6.住戸面積が一定以上あるか
長期優良住宅として認定されるには、一戸建て住宅の場合、合計75平方m以上の床面積を有していなくてはなりません。
くわえて、十分な生活空間を確保するために、1つ以上の階に最低でも40平方m以上の床面積が必要です。床面積を確認するときは、75平方mおよび最低基準の40平方mに階段部分やエレベーターが含まれない点に注意しましょう。
例外として、階段下をトイレや収納、通路などとして使用している場合は、該当範囲のみ床面積に加えられます。
また、住宅の規模については地域的な特色が見られることから、各所管行政庁の判断で、地域の実情に応じて床面積の基準は引き上げ・引き下げが行われるケースがあります。
1-7.維持保全計画を策定しているか
高性能な設備を導入しても、経年劣化によって快適性は徐々に失われていきます。長期優良住宅として住み続けるためには、定期的かつ適切なタイミングでのメンテナンスが欠かせません。
長期優良住宅認定制度では、維持保全計画も評価されます。法律においても、下記のメンテナンスが義務付けられています。
構造耐力上主要な部分 | 基礎、壁、柱、小屋組、土台、床版、屋根版など |
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雨水の浸入を防止する部分 | 屋根や外壁、これらの開口部に設ける戸、枠など |
給水又は排水の設備 | 給水管、受水槽・高置水槽、給水ポンプ、排水管、排水槽、排水ポンプなど |
上記の各設備に対して、仕様に応じた点検項目を設け、適切な点検時期を計画することが必要です。また、10年以下のスパンで点検を行う、結果に応じて追加の調査や修繕をすると言った対応も定められています。
1-8.災害に対して配慮された構造か
良質な住宅が長期的に使用される最低条件として、災害被害を軽減する施策が必要と考えられているため、長期優良住宅の認定基準には災害配慮があります。
宇都宮市の場合、地すべり防止区域、急傾斜地崩壊危険区域、土砂災害特別警戒区域での建築は長期優良住宅の認定対象外としています。
【自然災害による被害の発生の防止又は軽減への配慮険区域】申請に係る建築物が次に掲げる区域を含まない
- 地すべり等防止法(昭和33年法律第30号)第3条第1項に規定する地すべり防止区域
- 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項に規定する急傾斜地崩壊危
- 土砂災害警戒区域等における土砂災害特別警戒区域
配慮すべき災害の内容や区域は各所管行政庁ごとに異なるため、設計の前に確認を取りましょう。
2.【建てる前に申請が必要】長期優良住宅の申請方法
長期優良住宅として認定を受けるには、土地の所管行政庁へ着工までに申請を行う必要があります。着工前に申請した内容を一旦取り下げ、着工後に改めて申請することは不可能です。ただし、建てる前に申請を済ませておけば、認定前に当該住宅の建築工事を始めていても問題ありません。
出典:一般社団法人住宅性能評価・表示協会「⾧期優良住宅に係るQ&A」
所管行政庁への申請は、ハウスメーカーに代行してもらうのも可能です。自分で申請する場合は、次の手順で行いましょう。
2-1.必要書類を準備する
円滑に認定手続きを済ませるコツは、事前に必要書類を揃えておくことです。長期優良住宅の申請に必要な書類は、下記の通りです。
- 長期使用構造等確認申請書
- 長期使用構造等(変更確認)申請書別紙
- 設計内容説明書(戸建住宅用)
- 内容説明書添付資料(躯体高さ計算シート)
- 委任状
- 申請図書一覧
- その他審査に必要な書類
申請図書一覧は、申請にあたり用意すべき資料の一覧表です。たとえば建物周辺との位置関係を記した付近見取図や、部材の種類、エネルギー消費性能向上設備の種類などを記載した仕様書・仕上げ表などがあげられます。
一部の申請図書は、増改築基準を満たす場合など特定の状況のみで提出が求められる書類です。申請内容によっては、その他審査に必要な書類も追加されます。たとえば設計住宅性能評価書が事前に交付されている場合、コピーまたは写しの添付が必要です。
提出すべき書類が分からないときは、申請前に所管の行政庁へ問い合わせましょう。
2-2.登録住宅性能評価機関の性能評価を受ける
必要書類を揃えた後は、住宅が長期優良住宅として申請できる構造かどうかを登録住宅性能評価機関に確認してもらいます。
登録住宅性能評価機関では、長期使用構造等の要件が満たされているかが評価されます。審査後に交付される確認書や住宅性能評価書を利用すると、所管行政庁の審査を一部省略できることもあります。
性能評価では、主に技術的な審査が行われます。全国共通の基準が用いられるため、地域や担当者による審査結果の差異は発生しません。
審査の過程で、建築計画等の提出内容に対して質問表が送られるケースがあります。場合によっては、適合審査をクリアできるように図面の一部修正などが求められます。
2-3.所管行政庁に申請する
登録住宅性能評価機関による性能評価が完了したなら、所管行政庁への申請作業を進めましょう。登録住宅性能評価機関による性能評価は、長期優良住宅の申請において義務付けられているものではありません。性能評価を受けずに、直接所管行政庁へ申請することもできます。
ただし、性能評価を受けずに申請した場合、手数料が高くなったり審査期間が長くなったりします。申請方法ごとの認定等手数料の例は、下記の通りです。
【新築・一戸建てを長期優良住宅として認定申請した場合の手数料】市の名前 | 確認書あるいは住宅性能評価書添付の場合 | 確認書および住宅性能評価書の添付がない場合 |
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栃木県宇都宮市 | 17,000円 | 45,000円 |
茨城県水戸市 | 6,000円 | 45,000円 |
群馬県高崎市 | 18,000円 | 200平方m以下:71,000円 200平方m越え:81,000円 |
千葉県柏市 | 7,000円 | 38,000円 |
埼玉県さいたま市 | 8,000円 | 57,000円 |
神奈川県川崎市 | 8,000円 | 45,000円 |
審査にかかる手数料は地域ごとに大きく異なります。実際の手数料や事前審査による確認書の有効性は、申請する地域の所管行政庁で確認しましょう。
3.長期優良住宅を建てるときのポイント
長期優良住宅は、最新型の設備を導入すれば認定基準を満たせるとは限りません。計画や設計の段階へ進む前に、いくつかのポイントを押さえておくことで、失敗のリスクを軽減できます。
長期優良住宅を建てるときのポイントは、大きく分けて「依頼先」「費用面」「将来のメンテナンス」の3つです。それぞれ詳しく解説します。
3-1.実績のあるハウスメーカーに依頼する
長期優良住宅として認定を受けるためには、耐震性能や床面積基準、省エネ性能など複数の条件を満たす必要があり、さらに基準は時代に合わせて更新されています。常に新しい条件を把握しつつ、適切な長期優良住宅を提案してもらえるように、依頼先は実績のあるハウスメーカーを選びましょう。
長期優良住宅を建てる場合、専門的な知識と技術の両方が求められます。将来の定期点検やメンテナンスも考慮したデザインを取り入れつつ、コストを抑えられる提案ができるハウスメーカーなら、安心して任せられます。
また、実績が豊富なハウスメーカーは、長期優良住宅の申請手続きを代行またはサポートしてくれるメリットもあります。
3-2.建築費用と優遇措置のバランスを考える
多くのオーナーが長期優良住宅に注目する最大の理由が、優遇措置の存在です。長期優良住宅を選ぶと、下記の優遇措置が利用できます。
- 各種税金の控除額が増額する
- フラット35Sの金利が一定期間優遇される
- 自治体によっては補助金を利用できる
通常の一戸建てを購入した場合よりも、長期優良住宅を購入したときのほうが控除される金額は大きくなります。ほかにも、住宅ローンの金利優遇や補助金など、金銭的に優遇される点が長期優良住宅のメリットです。
ただし、高性能の住宅を建てるためには相応の追加費用が必要です。優遇措置を利用して一部の費用を浮かせると言っても、設備や性能にこだわると予算オーバーになりかねません。
優遇措置と建築費用のバランスを考えて、無理のない設計を依頼することも大切です。
3-3.定期メンテナンスが必要になることに注意する
長期優良住宅は、建築後も最長10年以内の間隔で定期的な点検やメンテナンスが必要です。メンテナンスにかかる費用も鑑みて、長期優良住宅にするかどうかは決めましょう。ただし、長期優良住宅でないとしても、快適な住環境を維持するためには定期的なメンテナンスが不可欠です。見方を変えれば、メンテナンスの時期があらかじめ計画されている長期優良住宅には、修繕が必要な箇所を早期に発見できるというメリットもあります。
メンテナンス履歴をきちんと残している住宅は、売却時に資産価値が減少しにくいという魅力も持っています。
まとめ
長期優良住宅の基準として、劣化対策等級3以上・耐震等級2~3・維持管理対策等級3・断熱等性能等級5・一次エネルギー消費量等級6などが定められています。地域ごとの地区計画や景観計画や、災害配慮などの基準も満たす必要があるため、事前に所管行政庁に確認を取りましょう。
また、長期優良住宅として認定を受けるには、土地の所管行政庁へ着工前に申請を行う必要があります。自分で申請作業をする場合は、必要な書類を用意し、登録住宅性能評価機関の性能評価を受けた上で、所管行政庁に申請するのがおすすめです。
長期優良住宅を建てる際には、建築費用と優遇措置のバランスを考慮しながら、長期優良住宅の建築実績があるハウスメーカーに依頼することを検討してみてください。また、定期的なメンテナンスが必要となる点にも注意が必要です。